ハッとナルは顔をあげた。テーブルの上を探って、封筒をひっぱり出す。中から紙幣を取り出した。
「どしたの?」
「『浦』だ」
ナルは紙幣を電灯に透《す》かした。
……あ。たしか紙幣に書かれた文字の中に『浦』という文字があったような。
ナルはあたしに紙幣をさしだした。あたしはそれを電灯に透かしてみる。ぼーさんが頭を寄せてきた。
シミ同士が重なった間にペンかなにかで書いた文字。真ん中のあたりに『浦』という字が見える。その隣によくよく見ると……。
「『戸』じゃねぇのか、横」
「ホントだ。これ、『戸』だよ」
……浦戸。
なるほど、とぼーさんはテーブルの上から封筒を取り上げた。そこには昨泄読めた文字が書いてある。
『よげく聞たさに浦る居弓皆は来処』
ぼーさんが、その文字の『浦』のとなりに『戸』と書きこんだ。
『よげく聞たさに浦る居弓皆は来処』
「なんて書いてあるんだろうな……。『聞たさに』……これは『聞たさに』か?『浦戸』『弓』『皆は来処』……『皆は来た処』……?」
「なにがなにやら」
「だな」
あたしとぼーさんはため息をついた。
「なんか手がかりが見つかると思ったんだけどなぁ」
そのとき、安原さんが、
「ちょっと、待ってください。これ、ちがいますよ。『戸』は左です」
「へ?」
安原さんは封筒を引き寄せ、ぼーさんの文字を消して、『よげく聞たさに戸浦る居弓皆は来処』
そう書き直した。
「戸浦ぁ?」
だれもが首をかしげている。
「わかった!」
安原さんは指を鳴らした。
「これは、右から左に読むんですよ」
……え?
ぼーさんも、
「そうか。書かれた時代から考えて、そのほうが自然なんだ」
安原さんがメモ用紙に、文字を書き直す。
『処来は皆弓居る浦戸にさた聞くげよ』
何度も紙幣を透かして見ながら、
「これとこれはつながってる……この間には一文字ある……」
つぶやきながら、さらにその下にもう一度清書を始めた。
『・処・来・・は皆弓・・居る浦戸に・さ・た・・聞く・げよ』「どうです?」
安原さんがさしだした紙が全員の間にまわった。
うう、これでもなにがなにやらわからないよぉ。
「最初の一文は読めそうなんだけどなぁ」
安原さんがぼやくと、ぼーさんがかたい声を出した。
「読めると思う」
え?
「『此処に来た……は皆弓んで居る』じゃないのか?」
「あ!」
「ここに来た者は、かもしれん。ここの間が二文字か三文字か、よくわからねぇけどさ」
ここに来た者はみな弓んでいる……。